2017年11月7日火曜日

先生の一言

先生の一言
 
 中学時代に世界史を教えてくださった加藤史朗先生の思い出を2つ。

 1つ目は中学1年生のころ。「自由」を代名詞にしているような学校だったから、熾烈な受験戦争を耐え抜いた僕らは、分かりやすい自由を手当たり次第謳歌していた。例えば授業中。今思うと大変質の高い講義だったように思うけれど、僕を含む一部の人間は、講義を聞かずに、別のことをいかにするかで、周りに自分の無頼をアピールしていた。
 授業中に隠れて弁当を食べたり、漫画を読んだり。その日僕は携帯ゲームをしていた。こともあろうか、ゲームギア。セガが出していた携帯するにはなかなかのサイズのやつだ。
 もちろんバレた。授業の声が3つ先の教室まで届く大声の持ち主の加藤先生が怒鳴る。おそらく6つ先の教室まで届いただろう。「有馬!何やってんだ!持ってこい!!」無頼を気取ってやっていた割に、怒鳴られたら怖くて縮み上がって、すぐにゲーム機を持っていった。
 授業後に呼び出される。「これ、どうやんだ。やってみろ。」おそるおそる電源を入れ、やってみせる。「ああ、どんなに怒られるんだろう。」とびくびくしていた。すると、今まで聞いたことの無いような穏やかな声で「こりゃ楽しいな。授業中にこんなものやったら止められるはずないだろ。授業中は出すなよ。」と言い、そしてゲーム機を手渡された。拍子抜けし、安心した。何より、「楽しいな」という言葉に驚いた。教員はそういうものを全否定するものだと思っていたから。(もちろん全否定されても仕方のない流れでもあった。)
 結局その後も、少なからず授業中に別のことをしていた気もするが、それでもゲームはさすがにやらなかった。世界史は好きな教科となり、小学校教員となった今の専門は社会科だ。あの時の穏やかな「楽しいな」のひとことは今でも忘れられない。
 
 もう一つ忘れられないことがある。
 高校2年生のときに、生徒代表として中学1年生の入学歓迎の言葉を入学式で話すことになった。毎年生徒代表の言葉はパフォーマンス重視みたいなとこがあるんだけれど、でも、自分が中1のときのカンローさんの言葉がとっても印象的だったこともあって、何を話すか、ものすごく悩んで決めた。真剣に考えたのだ。
 「自由」をテーマに話した。
 通った中高はとにかく「自由」だと入学のときから教員にも先輩に言われてきた。でも、その「自由」には責任が伴うとも必ず言われていた。そして、これも必ず付け加えられていた。「人に迷惑をかけるような「自由」は認められない」とも。
 上述の通り、その自由を無頼を気取ることで謳歌してきた。でも、自分の自由の行使の仕方が、本来の自由を矮小化させていることを薄々気づいていた。同時に、「人に迷惑をかけるような「自由」は認められない」ことへの違和感を持つようになっていった。今ならその違和感を表せる。それは簡単に同調圧力に置き換えられるのだ。「空気を読め」という言葉に簡単に変えられる怖さを「人に迷惑をかけるような自由は認められない」という言葉は持っていたのだ。
 その違和感を当時の自分なりの言葉で1年生に訴えたかった。「人に迷惑をかけるような自由は認められないって周りは言うかもしれない。でも、本当に自由を手にしたかったら、誰かしら迷惑はかけてしまうものなんじゃないか。周りへの迷惑を考えすぎて、お互いに遠慮して小さくなっていってしまうことよりも、大切なのは、お互いの迷惑を許しあえる関係を普段からどうやって作っていくかなんだと思うんだ。「迷惑かけちゃったな。ごめん。」と言えば「お互い様だろ。迷惑だったけど、お前楽しそうだったよ。」と笑ってそう返ってくるような、そんな関係を周りと作っていこうよ。」そんな話をしたかった。(実際は緊張でうまく話せなかった。)あれは1年生に話している形だけれど、自分に話していたんだな。
 結局また分かりやすい無頼を気取って、台本を演台上で破るパフォーマンスや、演台に腰かけて話したりしたので、何人かの先生には大きなものから小さなものまでお叱りの言葉をいただいた。「お前、あんまふざけんなよ。」見下すように言った先生もいた。
 でも、加藤先生は違った。話し終えて講堂を出た僕に、先生は駆け寄ってきた。そして、あの大きな声でこう言った。
「有馬、お前の言う通りだよ!ありがとう!」
そうして、僕の手をとって握手をしてくれた。
 高校2年生のころは、悩むことばかりだった。あのスピーチの内容も、当時の自分の苦しみをそれなりに吐露するものでもあったように思う。加藤先生の言葉が、自分を悩みや苦しみ、葛藤も含めて肯定してくれた気がして、すごく気が楽になったことを覚えている。そして、子ども相手に「ありがとう」と言って握手をできる、そんな教員、大人になりたいと、その時思った。

 僕の忘れられない「先生の一言」は、そんな加藤先生の2つの思い出だ。

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