2021年5月15日土曜日

ウネリウネラのブログへの寄稿③

 https://uneriunera.com/2021/05/10/kodomotachi-3-2/


 新年度が始まって、早くも1カ月がたちました。休校中だった1年前に比べ、今年の始まりはおだやかに迎えることができました。始業式はテレビ放送で行われ、入学式は以前に比べぐっと参加者をしぼって行いました。それでも、始業式、入学式ができなかった去年の4月を思えば、それは本当にうれしいことでした。

新年度を迎えるにあたって、おぼろげだけれど、どこか希望を持っていました。あたたかくなっていけば、少しずつ状況が良くなり、できることが増やせるようになると考えていたのです。

 僕のその希望は、まったくあまいものでした。結局、この1カ月も学校は大混乱の中にいました。状況は良くなるどころか、悪くなる一方で、まん延防止等重点措置が出されたことで、多くの行事を縮小や延期する決断を余儀なくされました。

 自分が教員でなければ、遠足や社会科見学などは「何も今無理して行かなくても」と簡単に決めることはできたでしょう。でも、子どもたちが学校行事をどれだけ楽しみにしているか、また、その経験がどれだけ子どもたちに残るものなのか、それを知っているだけに、ひとつずつの行事について決断を下していくことは、とても苦しいことでした。

 そして、緊急事態宣言が出されました。僕の受け持っている2年生の子どもたちにとって、この緊急事態宣言は、大きな意味を持っていました。なぜなら、緊急事態宣言が出された場合、本校では、万が一の際のコロナの感染を抑える観点から、異学年の子どもたちが交流する活動は見合わせると決めていたからです。子どもたちが楽しみにしていた、新しく入った1年生との活動ができなくなるのです。

 4月の終わりには、2年生が1年生に学校を案内し、様々な教室を紹介する活動が予定されていました。「学校案内はいつやるの?」「パートナーの子はいつ分かるの?」「いつ会えるの?」受け持つ2年生の子どもたちから何度聞かれたでしょうか。2年生の子どもたちは本当にそれを楽しみにしていたのです。「もうすぐ学校案内だ」そんな日記を書く子もたくさんいました。

 緊急事態宣言が出されたことを受け、この学校案内をはじめとする1・2年生の交流活動は延期としました。それを伝えたときの子どもたちの落胆ぶりは、それはそれは大きなものでした。

 せめてできることはないかと考え、1年生に向けて自己紹介カードをかくことにしました。子どもたちは一生懸命にそれを仕上げました。かわいいイラストを描いたり、学校に関するクイズを加えたり、カードの形を工夫したり、手作りのカードに子どもたちがどれだけ心をこめたか、それが伝わってくる力作ぞろいでした。

 本当なら学校案内をする予定だった日に、カードを渡しにいくことにしました。「今からカードを渡しに行くよ」そう伝えると、子どもたちから歓声があがりました。手を洗って、消毒をして、鼻までマスクをしっかりつけて、1年生のパートナーに会いに行きます。念には念を入れ、教室は開けっ放しにし、時間は5分以内と決めました。

 1年生の机には、名前シールが貼ってあります。事前に伝えていた名前を頼りに1年生を探します。楽しみにしていたものの、やっぱり初対面の知らない人と話すのは緊張するようで、歓声をあげていたはずの子どもたちは、少し硬い表情に変わっていました。

それでも、たった5分ですが、心のやりとりはできたようです。渡したカードをはにかみながらうれしそうに読む1年生のとなりで、2年生はもっとうれしそうでした。

クラスで1番体の大きいふうたくんは、大きな体を小さく縮めて、1年生の隣に膝をついて目線を合わせていました。時間が来て立ち上がった彼のひざこぞうは赤くなっていました。その赤いひざこぞうを見て、僕は心があったかくなりました。

「学校案内ができる日が楽しみだね」教室に帰ってきたみさとさんが、うれしそうにつぶやきました。その小さなつぶやきに、みんなが大きくうなずきました。

 

状況はかんばしくないように思います。ここにきて、休校だったりオンライン授業だったり、そういう言葉を再び目にする機会が増えてきました。もちろん一番に守るべきは子どもたちの安全と安心ですから、その必要があると考えれば、舵をきろうと思います。ただ、学校での子どもたちを見ていると、当たり前ですが、人と関わることの良さを感じることが多くあります。

葛藤と苛立ちの日々が続いていく覚悟はしながら、それでも子どもたちの日々はあたたかさに満ちたものにしたいと思うのです。

 

(子どもたちの名前は仮名です)

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